泡の挙動

T.S&R.M

本実験は2007年度埼玉県理科教育研究発表会で発表したものです。

動機

イルカは吹き出した気泡をリング状や紐状にして遊ぶという。イルカのバブルリングである。このバブルリングを人がつくる動画をインターネットで見つけて大変興味をもった。気泡は球形だというイメージがあったがどうもそうではないらしい。重力場環境で、水中に生じた気泡は重力加速度の向きと逆向きに移動する。いわゆるあぶくの上昇である。このとき気泡は水の抵抗を受けるため、球形のままで一直線に上昇するわけではないらしい。どのような形になりどのような挙動を示しながら上昇するかを調べてみることにした。

実験準備

【器具】

・ペットボトルの飲み口部分・透明アクリルパイプ(長さ1m、外径60mm、内径52mm、スケールの1目盛10mm)・フィズキーパー・ポリエチレンボトル・減圧器・鉄製スタンド・クランプ・ 60fpsデジタルカメラ

【装置作製】

1.ペットボトルの飲み口部分をアクリルパイプの一端に接着しフィズキーパーを装着する。

2.フィズキーパー部分を下方にして、アクリルパイプを鉄製スタンドに鉛直固定する(図1)。

3.フィズキーパーのゴム部分(図2)をポリエチレンボトル(図3)または減圧器に換えたものも作製する。

実験1
気泡の形を調べる

【手順】

1.アクリルパイプに水道水を満たす。

2.フィズキーパーのゴム部分を押して、気泡を押し出す(図2

4.気泡の挙動をデジタルカメラで撮影する(60fps)。

5.フィズキーパーのゴム部分をポリエチレンボトルに換えて気泡を押し出す(図3)。

6.気泡の挙動をデジタルカメラで撮影する(60fps)。

【結果】

1.フィズキーパーから出た瞬間の気泡は歪んだ形であったが、上昇を開始するとすぐに一定の形になり上昇を続けた(図4)。

2.大きな気泡を側面から観察すると、上部は半球形で下部は平たい形であるが、下部には小さな気泡が多数見られ、下部の内面は上部に凹んでいた(図5)。そして一定の形をほぼ保ったまま、一定の速度で上昇した。

3.アクリルパイプの側面全体に広がるほど大きな気泡をポリエチレンボトルから出すと、上部が伸びて縦に長い気泡となり上昇した(図6)。

4.小さな気泡を側面から観察すると、扁平な形をしていた。上昇は直線状ではなく、ゆらゆら揺れていた。

5.非常に小さな気泡はほぼ球形で上昇した。

考察

水中で上昇する気泡にはたらく力として次の4個が考えられる。

@ 浮力(鉛直上向き)  

A 重力(鉛直下向き)

B 水の抵抗力(鉛直下向き) 

C 器壁との摩擦力(鉛直下向き)

  気泡は浮力によって上昇するが、重力、水の抵抗力、器壁との摩擦力によって上昇が妨害される。重力は気泡全体に作用するので気泡の形には影響はない。水の抵抗力および器壁との摩擦力が気泡の形を変形させたと思われる。

実験2
気泡の上昇速度を調べる

1.フィズキーパー、ポリエチレンボトル、減圧器から気泡をアクリルパイプ中に送り出す。

2.ポリビニルアルコールを混合した水中に気泡を送り出す。

3.上昇する気泡をデジカメ(60fps)で撮影する。

【結果】

1.時間的に遅れて上昇を開始した大きい気泡が小さい気泡を追い抜く様子が観察された。

2.気泡の大きさ、上昇速度、器壁との距離について表1の結果が得られた(表1)。

3.ポリビニルアルコールを混合した水中では気泡はゆっくり上昇した(表2)。この場合も大きい気泡が小さい気泡を追い抜いた(図8)

表1. 上昇する気泡の大きさ、速度、器壁との距離の関係

気泡の大きさ(mm

(横径×縦)

上昇速度

mm/s

器壁との距離(mm

14×8

105

19

16×7

93

18

23×11

180

14.5

26×10

180

13

32×8

190

10

52×22

197

0

52×23

120

0

52×20

140

0

52×15

171

0

表2. 水・洗濯のり混合液(体積比1:1)中を

上昇する気泡の大きさ、速度、器壁との距離の関係

気泡の大きさ(mm

(横径×縦)

上昇速度

mm/s

器壁との距離(mm

22×9.0

177

17.9

5.1×2.6

69.0

28.7

図9. 実験2の結果 ちょっとまってネ。 図や写真もちょっとまってネ。

考察

1.大きい気泡が小さい気泡を追い抜いた理由は次のように考えられる。一定速度で水中を上昇する気泡にはたらく力のうち、浮力は気泡の体積に比例し、水の抵抗力は気泡の断面積と上昇速度の2乗に比例する。つまり気泡の大きさが増すと浮力は大きさの3乗に比例して増大するのに対して、抵抗力は2乗に比例して増す。その結果、浮力の増大率が抵抗力の増大率に勝る。よって大きい気泡ほど上昇速度が大きくなり、大きい気泡が小さい気泡を追い抜く。

2.表1においても、大きい気泡の上昇速度が大きくなっている。

3.器壁との距離が0.0mmの場合は、気泡が非常に大きいため大きな上昇速度示している。しかし、この数値は気泡の大きさから予想される値よりも小さい。その理由は、上昇のときに器壁表面で水が空気と入れ替わって気泡の下部に回り込むために摩擦力がはたらくこと、気泡の一部が細かい気泡になって泡立ち上昇を妨げる力を発生させることだと考えられる。

4.図9で直径52mmの気泡の上昇速度が大きくない理由は、気泡の体積が大きいので気泡が器壁に接触しながら上昇したことである。

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