ケミカルスティック----温度変化で色が変わる----
M.S&H.Y
 
[動機]色が変わるコンパクトなものをつくりたいと思った。
 
[原理]
@錯イオン[CoCl4]2-と錯イオン[Co(H2O)6]2+の間には次の平衡が成り立つ。
 
[CoCl4]2-+6H2O=[Co(H2O)6]2++4Cl-
青色       桃色
 
A錯体[CoCl2(H2O)2]と錯イオン[Co(H2O)6]2+の間には次の平衡が成り立つ。ただし、Q>0である。
 
[CoCl2(H2O)2]+4H2O=[Co(H2O)6]2++2ClQkJ
青色           桃色
 
BCo(U)の配位数は6であり、立体構造は正八面体である。配位子がClのとき、Co(U)の配位数は4であり、立体構造は正四面体である。
 
CCo(U)に配位子が配位するとd電子が分裂し、光を吸収してd−d遷移がおきる。吸収帯が可視光領域なので錯体溶液は呈色する。[CoCl2(H2O)2]は青色、[Co(H2O)6]2+は桃色を呈する。
Dガラス管に用いられているソーダガラスの融点は550℃なので、ガラス管をガスバーナーの炎中に入れ、融かして加工できる。
 
Eエタノール、1-プロパノール、1-ブタノールの沸点はそれぞれ78.5℃、97.2℃、117.3℃である。
 
[実験1]
(1)1gの塩化コバルト(U)CoCl2を20mLのエタノールに溶かし、2mLの水を加えた。
(2)(1)の溶液を細いガラス管に注入し、注入側の口をガスバーナーの炎中で融かして封じた。こうして2本のスティックを作った。                (写真1)
(3)1本のスティックを熱水中に浸し、もう1本は冷水中に浸した。
 
[実験1の結果]
(1)溶液の色は赤紫色であった。
(2)ガラスを融かして口を封じるとき、スティック中のエタノールが蒸発しやすいのでうまく出来るか心配だったが無事封じることが出来た。
(3)熱水中では溶液が濃い青色を呈し(写真1、2)、冷水中では赤紫色を呈した。(写真3、4)
(4)スティックを熱水中にしばらく浸しておくと、溶媒のエタノールが沸騰してしまい危険だと思った。           (写真2)
 
[実験1の考察]
1.溶液中では次の化学平衡が成り立っていると考えられる。
 
[CoCl2(H2O)2]+4H2O=[Co(H2O)6]2++2Cl+QkJ
        青色           桃色      
 
熱水中に浸すと、平衡が吸熱の方に移動して[CoCl2(H2O)2]の濃度が増し濃い青色なり、冷水中に浸すと、平衡が発熱の方に移動して[Co(H2O)6]2+が増し赤紫色になったと考えられる。
 
2.溶媒として使ったエタノールの沸点が78.5℃なので、スティックを熱水中に長く浸しておけないことが分かった。そこで沸点が高い1-プロパノール(97.2℃)、1-ブタノール(117.3℃)を使えば安全なスティックを作れるのではないかと思われる。
            (左:写真3)(右:写真4)
[実験2]
実験1で溶媒としてエタノールを1-ブタノールに代えて実験1と同様な実験を試みた。
 
[実験2の結果]
水と1-ブタノールが溶け合わず分離してしまうので溶液が作れなかった。
 
[実験3]
(1)実験1で溶媒として用いたエタノールを1-プロパノールに代えて実験1と同様な実験を試みた。
(2)エタノール10mLと1-プロパノール10mLの混合液を溶媒として実験1と同様な実験をした。
                  
[実験3の結果]
(1)1-プロパノールでは室温で溶液は赤紫色を呈した(写真5)。
(2)エタノール10mLと1-プロパノール10mLの混合液では、室温で溶液は青色を呈した(写真6)。
(3)エタノール10mLと1-プロパノール10mLの混合液スティックを冷水中に浸すと赤紫色を呈した(写真7)。
 
[実験3の考察]
(1)室温で1-プロパノールが溶液は赤紫色を呈した理由は、平衡が右側に偏っているためと思われる。
 
                           (左:写真5)(右:写真6)
(2)エタノール10mLと1-プロパノール10mLの混合液では、[Co(H2O)6]2+の生成量が少なく、平衡が左側に偏っているためと考えられる。その原因は、1-ブタノールの影響によって塩素がコバルトに配位しやすくなるなっているのではないかと思われる。
 
(3)冷水中に浸すと、発熱側に平衡が移動して[Co(H2O)6]2+の濃度が増し、溶液が赤紫色を呈したと考えられる。
 
[まとめ]
 エタノール10mLと1-プロパノール10mLの混合液に塩化コバルトCoCl(U)1gを溶かして水2mLを加えた溶液を細いガラス管に注入することで、色が変わるコンパクトな「ケミカルスティック」を作れることが分かった。温めると青色、冷やすと赤紫色に変化する。ガラス管の代わりに耐熱耐アルコール性の透明な管を用いるとより安全なスティックが出来る。
                    (写真7)