マロン酸リンゴ酸クエン酸を基質とした振動反応の比較実験
[ 目的 ]
 シマウマの縞と似た模様が化学反応で作れるということを聞くとともに、「反応を繰り返す」あるいは「自発的に模様が発生する」といった今までの授業の実験では見られなかった反応を知り、大変な興味を持った。そこで、文献を参考にこのような化学実験の追試を行うと共に様々な試薬を用いて改めて実験を行い、溶液の化学的挙動がどう変化するかなどを調べてみることにした。
[ 原理 ]
 金属イオンを触媒としてマロン酸やリンゴ酸などの有機物を臭素酸で酸化するBZ(ベロウソフ・ジャボチンスキー)反応の過程で、触媒である金属イオンの酸化状態が一定周期で時間的に変動反復を繰り返すことがある。
 例えば、金属イオンとしてフェロイン(オルトフェナントロリン鉄錯体)を用い、マロン酸を臭素酸ナトリウムで酸化すると次のような全体反応が進行する。
マロン酸+臭素酸→臭化マロン酸+二酸化炭素
 この進行の過程で臭化物イオン濃度が時間的に周期変動するとともに、フェロイン・フェリイン間の時間的周期変動が現れる。そのため溶液の色が赤と青の間を時間的に周期変動する。またBZ反応溶液をシャーレ中にうすく広げるように入れて静置すると、赤色溶液中に淡青色の同心円状または螺旋状の縞模様が出現し、時間とともに縞模様が生成進行する。
[ 予備実験と結果 ]
 マロン酸を使って空間振動の実験を行ったところ、ちゃんと文献通りに反応が起きた。
しかしリンゴ酸、クエン酸で同様に実験を行ったところ、空間振動は全く見られなかった。溶液が青く染まったまま(酸化したまま)変化しなかったので、マロン酸(還元している溶液)を試しに混入してみた。すると、ある一定の量を混入したときに溶液が変化し、模様が発生した。そこで還元する事が確認されているマロン酸をリンゴ酸、クエン酸と対比させ、どのような割合で反応が発生するのかを調べてみることにした。
[ 試薬の調製 ]
 純水100mlに下記の試薬を溶かし、A〜Eの溶液を調製する。
                                       
溶 液   試 薬                            
A     臭素酸ナトリウム12.5g                     
B     臭化ナトリウム2.5g                      
C     マロン酸2.5g                         
C’    リンゴ酸3.2g                         
C”    CとC’を体積比[10:0]〜[0:10]の割合で混合する      
D     硫酸17ml                           
E     1,10-フェナントロリン1.35g、硫酸鉄(U)0.7g         
[ 実験1 ]
 マロン酸、リンゴ酸を反応基質としたBZ反応(空間振動)を比較する。
<実験方法>
@シャーレにA溶液2ml、B溶液1ml、C”溶液2ml、D溶液1mlをいれる。
A黄色(臭素)が抜けるまでシャーレを軽く揺する。
BE溶液1mlを入れ、青く変色し始めるので液を揺すって混ぜ、溶液全体が青色になるようにして放置する。
<結果>
 C溶液とC’溶液の混合比が10:0〜5:5までは比較的綺麗な模様が見られた。しかし、4:6からぼやけ始め、3:7では時間振動が起きた後にごくうすく、2:7では見えるか見えないかの反応がかろうじてすこしだけ確認することができた。1:9、0:10では溶液が青く染まったまま(酸化したまま)変化しなかった。
[ 実験2 ]
 マロン酸、クエン酸で比較する。
<実験方法>         
 実験1のC’溶液を、クエン酸を4.6g溶かしたものに変える。
<結果>
 リンゴ酸を用いた場合と全く同じように、C溶液とC’溶液の混合比が10:0〜5:5まではハッキリ模様を確認出来たが、それ以降の溶液では輪郭線がハッキリしないか(3:7、2:8)、模様が発生しなかった(1:9、0:10)。
[ 実験3 ]
 結果1、2のとおりリンゴ酸、クエン酸のみでは空間振動は起きなかった。のみならず、全く同じ対比結果を示したことから、リンゴ酸、クエン酸は空間振動に関与しないと仮定し、そのことを確かめるために2つの試薬の代わりに純水を用いて改めて実験を行ってみることにした。
<実験方法>         
 実験1のC’溶液を、純水に置き換える。
<結果>
 リンゴ酸、クエン酸を用いた結果とほとんど変わらない結果がでた。
[ 考察 ]
 上記実験1,2の結果よって、発生した縞はマロン酸のみで構成されたと予測される。
 リンゴ酸、クエン酸は単独で空間振動を起こすことができないどころか、純水との比較でわかるように空間振動には全く関与しない物質であることが推測される。