ギムネマ酸とインベルターゼ
橘 伊織
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
【目的】
 昔から飲まれていたお茶には、緑茶、ほうじ茶、番茶、麦茶があるが、最近では健康茶として、ウーロン茶、杜仲茶、野草茶、ギムネマ茶等多種多様のお茶が市場に出回っている。その中に、砂糖の甘さを感じなくなる、あるいは太らなくなるという不思議なお茶「ギムネマ茶」があることを知った。
 太らなくなる理由として次のような指摘がある。
 スクロースが加水分解されて生成するグルコースやフルクトースが腸壁を透過するときはタンパク質と結合する必要がある。ところが、ギムネマ酸が先にそのタンパク質と結合してしまうため、グルコースやフルクトースが吸収されない。その結果食べ物と一緒にギムネマ茶を飲むと太らない。
 昨年はギムネマ茶溶液中における還元糖の還元作用を調べる実験について報告した。今回はギムネマ茶の成分(ギムネマ酸)が酵素インベルターゼの作用を阻害するかどうかを調べてみる。
【予備知識】
1.ギムネマ茶とは?
 ギムネマとはインド南部を中心に自生するギムネマ・シルベスタというガガイモ科のつる性植物で、岩の多い丘陵地の樹木にからみつくように生えている。葉の採取時期は9月〜2月頃でつるごと採取してその葉を乾燥し、番茶のようにして飲む。
 ギムネマの葉は口に入れて噛むと、砂糖をなめても甘さを全く感じなくなるという性質をもっており、古代インドの人々は、ギムネマが砂糖を壊すと考えていた。
 サトウキビの原産地であるインドは、糖尿病患者が多く糖尿病予防の民間薬として長い間飲まれてきた。
 
2.甘みを感じなくさせる成分はギムネマ酸
 ギムネマ・シルベスタの有効成分であるギムネマ酸は、砂糖の甘みを感じなくさせる作用がある。
 ギムネマ酸を舌に塗り、砂糖をなめてみると、ざらざらしてまるで砂をなめているような感じがし、ケーキを口に入れても石けんを食べているような感じになる。このため甘味をもった食品に対する食欲を減退させる効果がある。これはギムネマ酸が、甘みを感じる味細胞と甘味物質が結びつくのを阻害するからだと考えられている。
 また、小腸においてぶどう糖の吸収を抑制する働きもあることが知られている。
【原理】
 糖類は化学的にはC,H,Oの三元素からなり、一般式がCn(H2O)mで示されるような、炭素と水の化合物の意味で、炭水化物または含水炭素と呼ばれてきた。しかし現在はこれに従わないものも出てきたので、分子内に数個のOHと1個のカルボニル基をもつ多価のアルデヒドアルコールまたはケトアルコールの構造を有する単糖類、および加水分解によってこれらの単糖類を生ずる一連の化合物を糖類あるいは炭水化物と定義するようになった。
 糖類は単糖類(ブドウ糖、果糖、ガラクトース、マンノースなど)、二糖類(ショ糖、麦芽糖、乳糖など)、多糖類(デンプン、グリコーゲン、セルロースなど)に分けられる。二糖類や多糖類は単糖類が縮合してできたものと考えることができ、酸や酵素で加水分解すると単糖類が生成する。単糖類はその分子中に1個のカルボニル基を持っているので、その還元性を利用して検出することができる。フェーリング反応や銀鏡反応などはその例である。
 カルボニル基が結合に利用されている二糖類のショ糖や多糖類では還元性を示さないが、酸や酵素で加水分解すれば還元性を示すようになる。また同じ二糖類でも麦芽糖や乳糖では還元性を示す。
《フェーリング(Fehling)反応》
 この反応は還元糖が2価の銅イオンCu2+を還元して、黄色または赤色の酸化銅(T)Cu2Oの沈殿を生ずる反応である。糖類以外のアルデヒドも当然この反応がある。
 スクロース(ショ糖)の分子はグルコース(ブドウ糖)とフルクトース(果糖)が還元性のある部分で縮合した構造をもっているので、その水溶液はフェーリング液を還元しない。
 スクロースは酵素インベルターゼ(サッカラーゼ)によって加水分解され、グルコースとフルクトースになる。
 C12H22O11+H2O=C6H12O6+C6H12O6
 
【実験】
《溶液の調製》
@フェーリング液の調製
(1)硫酸銅(CuSO4・5H2O)6.9gを水に溶かして100mlにする。(フェーリング溶液A液)
(2)酒石酸ナトリウムカリウム(KNaC4H4O6・4H2O)34.6gとNaOH10gを水に溶かして100mlにする。(フェーリング溶液B液)
(3)AB両液を使用直前に等量混合して使う。
Aスクロース溶液の調製
 スクロース1gを水99gに溶かす。
Bスクロース・インベルターゼ溶液の調製
 スクロース1gとインベルターゼ0.2gを水99mlに溶かした溶液を35℃の温度に15分間保つ。
Cスクロース・インベルターゼ・ギムネマ茶溶液の調製
 スクロース1gとインベルターゼ0.2gをギムネマ茶溶液99mlに溶かした溶液を35℃の温度に15分間保つ。ギムネマ茶溶液はティーバッグ1個に熱湯200mlを注いで20秒間抽出してつくる。
《フェーリング反応》
 3本の試験管にフェーリング液2mlずつをとり、ABCの水溶液各1mlずつを加え、沸騰水中で5分間加熱する。
《結果》
 フェーリング反応の結果は次のとおりである。(写真)
Aスクロース溶液:青色透明な状態からの変化はなかった。
Bスクロース・インベルターゼ溶液:加熱すると青色透明な状態から赤色沈殿が生じた。
Cスクロース・インベルターゼ・ギムネマ茶溶液:Bと同様に加熱すると青色透明な状態から赤色沈殿が生じた。
 
【考察】
 
Aスクロース溶液:スクロースはグルコースとフルクトースのカルボニル基が結合に利用されているので還元性を示さない。
Dスクロース・インベルターゼ溶液:スクロースがインベルターゼによって加水分解されグルコースとフルクトースが生じ(図)、この2種の単糖類がフェーリング液を還元して(図)赤色沈殿(写真)を生じた。
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
Cスクロース・インベルターゼ・ギムネマ茶溶液:スクロースがインベルターゼによって加水分解されグルコースとフルクトースが生じ、この2種の単糖類がフェーリング液を還元して赤色沈殿(写真)を生じた。
まとめ:今回の実験条件下ではギムネマ茶(ギムネマ酸)のインベルターゼに対する阻害作用は見られなかった。