試験管を用いた熱音響現象

【はじめに】試験管の中で化学反応が起きるとき音が発生するという現象を知り、現象の確認とその詳細について調べることにした。

【実験1】音の発生を確認する。

[準備]試験管、試験管ばさみ、ガスバーナー、マッチ、硫黄粉末、スチールウール(ボンスター)

【方法】

1.        試験管に硫黄粉末を1フィーガー(指1本分)程度とる。

2.        親指大に軽くまるめたスチールウールを硫黄から2cm程度離れた位置までゆるやかに押し込む(図1)。

3.        試験管ばさみで試験管を持ち、ガスバーナーで下部を加熱する(図2)。

[結果]

1.加熱すると、硫黄が始め黄色いさらさらした液体になり、加熱するに従って橙色、赤色、赤褐色へと変化するとともに粘性が出てきた。さらに加熱を続けると、赤褐色の硫黄が沸騰し蒸気がスチールウールに蒸着し、スチールウールは下部から赤くなった。スチールウールの上部のほうは黄色であった(図2)。

2.しばらく加熱を続けると、ポーという音が鳴り出した。音は数分から30分程度秒鳴り続け、音程や音量が変化した。音量は予想以上に大きく実験室全体に響き渡るほどであった。

[考察]

音の発生を確認出来た。音が鳴り始めるのは硫黄が溶けるときではなく、硫黄がスチールウールに蒸着してさらに加熱を続けてからであることや試験管をガスバーナーから離すと音量が減少することから、硫黄と鉄の化学反応が原因で音が発生すると思われる。聴取によると音程の変化はわずかあったが、その原因は硫黄と鉄の化学反応が一様に進行しないために、試験管内の温度が変化し音速も変化することではないかと思われる。

【実験2】試験管から発生する音の特徴を調べる。

[準備] 試験管(大、中、小)、試験管ばさみ、ガスバーナー、マッチ、硫黄粉末、スチールウール(ボンスター)、音センサー、温度センサー、ADコンバータ、パソコン

[方法]

1.大きさの異なる試験管(大、中、小)を3種類用意し、それぞれに硫黄とスチールウールを入れる。

2.実験1と同様にガスバーナーで試験管を加熱する。

3.「ポー」という音が発生したら、音センサーで音を受けパソコンに取り込む(図3)。

4.「ポー」という音が発生しているとき、試験管内の温度を温度センサーで測定する。

[結果]

1.用いた試験管の大きさ(内径、全長)及びスチールウール(ボンスター)の位置(試験管の口からボンスター上部及び下部までの距離)は表1のとおりであった。

表1

試験管小

試験管中

試験管大

試験管の内径(mm)

12

16

26

試験管の全長(mm)

150

180

195

試験管口からスチールウールの上部までの距離(mm)

101

123

120

試験管口からスチールウールの下部までの距離(mm)

120

146

158

2.0.05ms毎に取り込んだ音(空気の振動)の測定値と波形は表2,3,4,図4〜9のとおりであった。

3.3本の試験管から聞こえる音を比較すると、大中小の順に高音だった。

4.スチールウールから5cm程度離れた場所の温度は約90℃であった。

[考察]

1.       図4〜9を見ると、音の波形は正弦曲線にきわめて近い形をしている。表2〜4のデータから各音の周期、振動数を求めると表5のようである。

表5

試験管

周期(ms

2.45

2.18

1.18

振動数(Hz

408

459

532

大中小の順に高音になるという結果3とこの表の値は一致している。

音の発生は、管底が固定端、管口が自由端となって試験管内に定常波が発生したためと考えられる。従って、短い管では波長の短いすなわち高音の音が発生したと思われる。

2.試験管内の温度90℃を用いて管内の音速を見積もると、386m/sである。ここで音速Vと温度tの関係

   V331.50.6tを用いた。ただしtは摂氏温度である。波動の速度V、波長λ、振動数fの間には次の関係式が成り立つ。

        λ=V/f

   表5の振動数を用いて対応する波長を求めると表6のようになる。表6には試験管の長さから予想される定常波の波長も示してある。

   両者の比は試験管の長さにかかわらず1.2である。これは、管内温度の不均一やスチールウールの存在に原因があると考えられる。

表6

試験管

@測定した振動数から求めた波長(m)

0.94

0.84

0.72

A試験管の長さから求めた波長(m

0.78

0.72

0.60

@/A

1.2

1.2

1.2

音が発生する原因は試験管内に生じた温度匂配だと考えられる。図2から分かるように、スチールウールの下部が高温、上部が低音となっている。下部が高温となる理由は、鉄と硫黄の化学反応による発熱である。高温部で暖められた空気は膨張して低温部へ広がるが低温部で冷やされて収縮する。収縮して高温部へ戻った空気は再び膨張する。これを繰り返して管内の気柱全体を揺さぶって定常波を発生させて音を出していると考えられる。